◯熱によるダメージの防止。高温による刃先の変形や硬度低下を防ぎ、物理的に強い状態を維持できる。
高温が工具に与えるダメージとは?
ダメージの種類 | 内容 | 冷却による防止効果 |
熱変形 | 工具材が高温にさらされると、膨張や変形が起こり寸法精度が崩れる | 冷却により刃先温度を安定させ、寸法の狂いを防止 |
焼き戻り現象 | 工具材の硬度が高温で下がる現象(特に高速度鋼に起きやすい) | 温度上昇を抑えることで、元の硬さと耐摩耗性を維持 |
酸化・腐食 | 高温状態で空気との反応が進み、表面酸化や腐食が起こる | 冷却液が酸化を防ぎ、刃先の劣化を抑える |
コーティングの劣化 | TiNなどのコーティングが高温で剥がれやすくなる | 温度上昇を抑え、コーティングの保護効果を長く維持 |
熱クラック | 急激な加熱冷却で微細なひび割れが発生 | 温度変化を穏やかにし、熱疲労によるクラックを予防 |
◯摩耗の抑制 摩擦や表面酸化を軽減し、刃先の摩耗進行を遅らせる
摩耗とは工具が切削中に受ける“すり減り”現象で、主に以下のような種類があります。
摩耗の種類 | 内容 | 冷却による抑制効果 |
摩擦摩耗 | 工具とワーク間の接触・擦れによって表面が削られていく | 冷却液によって摩擦が減り、摩耗速度が低下 |
拡散摩耗 | 高温下で工具材とワークの成分が相互に拡散し工具の組成や構造が変化して生じる | 冷却で温度を下げることで拡散反応を抑制 |
酸化摩耗 | 高温による酸化で表面が脆くなり、摩耗が進行する | 冷却により酸化温度域に達しないように制御可能 |
凝着摩耗 | ワーク材が刃先にくっついてはがれるときに工具表面も一緒に剥がれて摩耗 | 冷却で粘着性を低減し、刃先の凝着・はがれを防止 |
◯熱疲労の軽減 急激な温度変化による微細なひび割れ(クラック)の発生を防ぐ
熱疲労とは工具が加工中に何度も加熱・冷却されることで、以下のような現象が起こります。
熱膨張と収縮による応力の蓄積 | 金属材料は加熱で膨張し、冷却で収縮します。この繰り返しが工具内部に微細な応力を発生させ、やがて破壊につながります |
表面に微小クラックが発生 | 応力の集中や熱膨張の不均一性により、刃先表面にクラック(ひび)が入り、それが成長すると工具破損の原因に |
硬脆材料への影響が特に大きい | セラミックやCBNなどは強度は高いが粘りがないため、熱疲労によるクラックに弱く、冷却が必須になります |
冷却による熱疲労の防止効果
冷却の働き | 防止される現象 |
温度変化の緩和 | 急激な加熱・冷却を避け、応力の蓄積を抑える |
刃先温度の均一化 | 加工点の局所的な過熱を防ぎ、クラックの発生を抑制 |
微細な亀裂の進行抑制 | クラックが成長しにくくなり、工具破損のリスクが低下 |
◯構成刃先の抑制 ワーク材の付着(構成刃先)を防ぎ、安定した切削性能を維持できる
冷却による構成刃先抑制のメカニズム
要因 | 説明 | 冷却の効果 |
高温による粘着性増加 | 特に軟質材料(アルミ、軟鋼など)は高温下で粘着しやすく、構成刃先ができやすい | 冷却で温度を下げ、材料の粘着力を抑制 |
摩擦と塑性変形 | 切削点で摩擦が強くなると、ワーク材が塑性変形して工具に付着 | 冷却液の潤滑効果で摩擦を低減し、変形を抑える |
局所過熱 | 切削点が局所的に高温になると、工具表面に材料が活性化して張り付きやすくなる | 冷却で温度分布を均一にし、局所的な付着を防止 |
切りくず滞留 | 切りくずが刃先に溜まると構成刃先の種になる | 冷却液で切りくずを効率よく排出し、付着リスクを軽減 |
◯切りくずの除去性向上。切りくずを刃先に残さず、チッピングや不均一な摩耗を防ぐ
切りくずの問題点と冷却の役割。切りくず(チップ)がうまく排出されないと、工具に悪影響を及ぼします。
問題点 | 内容 | 冷却による改善 |
刃先の再接触 | 切りくずが刃先に巻きついて、再び接触することで摩耗やチッピングを引き起こす | 冷却液の流れで切りくずを素早く排出し、刃先との再接触を防ぐ |
局所的な熱蓄積 | 溜まった切りくずが熱を持ち、刃先温度を上昇させる | 冷却によって切りくずの熱を取り除き、温度上昇を抑制 |
構成刃先の誘発 | 切りくずが刃先に付着し、構成刃先の発生を促す | 冷却で切りくずを押し流し、刃先への付着を防ぐ |
加工点の視認性・安定性の低下 | 切りくずが加工部に溜まることで不安定な切削になり、精度が落ちる | 冷却流で切りくず除去が効率化され、加工点がクリアに保たれる |
◯異物がクーラントに混入すると起こる悪影響
問題点 | 内容 | 影響 |
冷却性能の低下 | 異物によって流速や冷却液の熱伝導性が低下 | 刃先の温度が下がりにくくなり、摩耗が促進される |
循環系の詰まり | ポンプやノズルが詰まると、冷却液がうまく流れない | 局所的なオーバーヒートが発生し、工具にダメージ |
腐敗・化学変化 | 微細な金属粉や油分が混じると冷却液が劣化・腐敗する | 異臭・成分変化・潤滑性低下などトラブルの元に |
刃先への付着物 | 異物を含んだ冷却液が再付着することで加工面が汚れる | 加工精度や表面品質の低下、構成刃先の誘発も |
マイクロキャッチ導入による主な変化
効果 | 内容 |
冷却液の清浄度向上 | スラッジ(微細切粉)や浮上油を高精度フィルター(0.5~5μm)で除去し、冷却液を新液に近い状態で維持 |
腐敗・臭気の抑制 | 異物除去によりバクテリアの繁殖を防ぎ、冷却液の腐敗を防止 |
刃具寿命の延長 | 清浄な冷却液により切削抵抗が減少し、摩耗や熱ダメージが軽減されることで寿命が延びる |
加工時間の短縮 | 冷却性能が安定することで加工条件を最適化でき、送り速度や回転数を上げることが可能 |
冷却液の交換頻度低減 | 通常年2~3回の交換が、2~3年に1回で済むケースもあり、廃液コストの削減に貢献 |
特に穴加工系の刃具(バニシングリーマーなど)では寿命が最大9倍に延びた事例も報告されています。
また、磁性体・非磁性体を問わず異物除去が可能なので、幅広い加工現場に対応できます。